2017年首都圏の新築・中古マンション市場を占う 榊 淳司(住宅ジャーナリスト)



首都圏のマンション市場は、アベノミクスが始まった2013年以降は基本的に上がり調子だった。

特に2014年10月の「黒田バズーカ2」以降は、「バブル」と呼ぶにふさわしい値上がり傾向を示すエリアも出てきた。中でも私が「局地バブル」と呼ぶ都心、城南、湾岸、武蔵小杉エリアでは、本来の実力値以上に値上がりしたと思われ、物件にもよるが2013年前半と比べて新築マンションが1.3倍~1.5倍程度は値上がりした感じだ。こうした「局地バブル」が2015年には極限にまで膨らんだといえる。



2017年首都圏の新築・中古マンション市場を占う 榊 淳司(住宅ジャーナリスト)

(写真はイメージです。本文の内容とは関係がありません。)



2016年前半にはピークアウトしたと思われるが、しかしながら2016年中は、一般消費者に分かるほどの目立った下落現象は見られなかった。



マンション価格を上昇させてきた3要因

2017年も、リーマンショック級の大きな事件さえ起こらなければ暴落的な下がり方はしないはずだ。ただし、下落基調を続けることは確かだろう。

その理由は、これまでマンション価格を上昇させてきた3つの大きな要因が弱まったからである。その3つの要因とは次の通り。

 相続税対策による購入
 外国人の購入
 史上最低金利

1. の「相続税対策での購入」とは、主にタワーマンションの上層階を購入して資産評価を圧縮するもので、かなり有効な手法だった。それまでの相続税評価額は、同一マンション内の住戸はどの部屋においても同じ単価(床面積当たりの価格)で計算された。実質的な市場価値が高い上層階を購入すると、相続税評価額は5分の1程度に圧縮できたとされる。つまり1億円の現金は1億円と評価されるが、時価1億円のタワーマンション上層階を購入すると2千万円程度に評価されるようなこともあり得た。だから富裕層がタワーマンションの購入に殺到したのだ。

しかし、2016年に国税庁などが評価方式などを見直す方向性を打ち出したことによって、いわゆる「タワーマンション減税」の妙味はかなり薄れた。そして、この相続税対策のマンション需要は一気にしぼんだ。

2. の「外国人の購入」の主役は、主に東アジア系である。彼らは2015年頃には「爆買い」と言われるほど東京の新築マンションを購入していた。しかし現在はそれほど目立たず、むしろ江東区の湾岸エリアでは売りに回っている気配さえ感じる。

外国人が以前ほど目立たなくなったのは、2016年に彼らが好むような新築マンションがあまり供給されなかったことも一因だ。

彼らは新宿や池袋、六本木、渋谷といった海外でも知られた街の、派手な物件を好む。目立ちやすいタワーマンションなどは格好の対象だ。また、湾岸埋め立て地の荒涼とした風景にも違和感を抱かない。むしろ「オリンピック開催エリア」としての説明のしやすさと、湾岸ならではの豪華仕様を好む。したがって、日本人富裕層が好むしっとりとした伝統的な住宅地の低層マンションなどには見向きもせず、湾岸のタワーマンションに群がっていた。

だが最近では、こうした湾岸や都心中核エリアでの新築タワーマンション供給が少ない。
2017年にこの類の物件が市場に出てくると、再び外国人の購入が盛り上がる可能性もある。ちょうど為替も円安基調が戻りつつあるようだ。

3.の「史上最低金利」だが、2017年中には徐々に上昇しそうな気配を感じる。その理由は、アメリカの金利上昇だ。2016年暮れにFRBのイエレン議長が、2017年中に3度の利上げを行うことを示唆した。大きな景気後退でも起こらない限り実行されるだろう。折しもアメリカではトランプ新大統領が「アメリカを偉大にする」経済政策を打ち出さんとしている。これが成功しアメリカ経済が良くなると、ますます利上げの基盤が整う。

国際的な資本移動が1990年代に自由化され、国境を超えたマネーの流れが活発になった現在、アメリカの金利変動は日本経済に大きな影響を与える。とりわけマンションも含めた不動産市場は金利に敏感だ。

日銀の黒田東彦総裁は利上げを望まないが、それでも市場金利はアメリカにつられて徐々に上がるはずだ。大まかに連動する住宅ローン金利の上昇も予想される。

以上3つの要因のうち、2.の「外国人の購入」以外は、近い将来に今の動きが逆流するとは考えにくい。特に相続税対策のタワーマンション需要は今後まず見込めない。金利も今が史上最低水準なので、マイナス金利でも導入しない限り、今よりも下がることはないだろう。あとは上がるのがいつか、という問題だ。



東京のマンション市況は金利との連動性が強まる

東京のマンション市場は近年、ますます金融との連動性を強めている。買い手の中に、金利に敏感なJリートの占める割合が高くなっているのも一因と思われる。彼らは物件購入費用の調達金利が上がれば、利回り収益を確保するために購入価格を下げようとする。その動きは不動産市場への下落圧力となり、やがて市場全体へと広がると、一気に先安観が主流になってしまう。

この先、不動産市場は上昇よりも下落する可能性の方が高くなっているのだから、将来売却の予定があるマンションなどは、早めに売り出した方がいいだろう。逆に新築・中古に限らずマンション購入の予定があるのなら、物件選びを慎重に行うべきだ。下落の兆候は、不動産業界の内部では割とはっきりしてきている。

例えば中古市場において、「これは安く決まったものだな」という感想を抱く売買事例をチラホラ見かけるようになった。そういう事例がやがて普通になれば、市場全体が下落の流れに飲み込まれる。

新築マンション市場では、2016年の年央から停滞感がくっきり現れだした。完成在庫が目立つほど大きく膨らんできたからである。



値引きが目立ち始めた新築マンション

マンションデベロッパーというものは、住友不動産など一部を除いて一般的に完成在庫を嫌う。契約・引き渡しを行って販売代金を回収しなければ、土地購入費や建築費の支払いを賄った銀行融資の金利がかさむからだ。金利負担が増えれば事業収支が悪化する。また販売を続けていれば日常経費も負担となる。だから新築マンションの竣工が近づくと、売主からは販売の現場に「値引きしてでも完売に持ち込め」という指示が飛ぶことが多い。

それでもここ数年は、傍目にも値引きをしている新築マンションは珍しかった。それだけ市場が好調だったのだ。特に局地バブルが膨らんだ2015年は新築マンションがよく売れた。ところが、2015年の終盤からこの流れが怪しくなってきている。

2016年の年央あたりからは、はっきりと値引きに踏み出したと分かる物件が目立ってきた。値引きを我慢してきた某大手デベロッパーも、特販部隊を結成して在庫の値引き販売を行い始めた。完成在庫の膨張に我慢できなくなってきたのだ。やはり財閥系の大手企業でもない限り、経営体力の低下に耐えられなくなるのだろう。



緩やかに下落傾向が続く

2017年は、この傾向にさらに拍車がかかると思われる。新築マンション市場の完成在庫も全体的には増加傾向にある。

以上のような状況から、2017年のマンション市場は一般消費者にとって「物件選び次第によってはチャンスが広がる」年になりそうだ。しかし、あわてる必要はない。今後、この下落傾向は緩やかにしばらく続く可能性が高い。

特に「異次元の金融緩和」によって局地バブルの原因を作った日銀・黒田総裁の任期は2018年3月まで。次期総裁に日銀出身者が就けば、黒田氏が続けた異次元金融緩和は徐々に引き締めへと転ずると考えられる。そうなれば不動産市場の下落基調もしっかりと定着しそうだ。

ただ、市場価格が4年前の1.3~1.5倍になった局地バブルエリアで値上がり分がすっかり元に戻るまでには、リーマンショック級の事件でも起きない限り、数年を要すると考えるのが妥当だ。

榊 淳司(住宅ジャーナリスト)
1962年、京都府出身。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案の現場に20年以上携わる。一般の人々に分かりにくい業界内の情報や、マンション分譲事業の仕組み、現場担当者の心理構造などをブログ上で解説。近著に『マンション格差』(講談社現代新書)など。



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